5月といえば、5月病。幸いなことに、慶應大学クマムシ研究グループには5月病になったメンバーはいないようです。
でも、わかる。5月病になるの。人間数十年も生きていれば、誰でもこんな経験はしていて当然。
進学先の学校に、期待で胸を膨らませて通い始めたのに、思っていたほど面白いクラスメートがいないことが判明したとき。
新しい職場で慣れない業務をこなすのに精一杯な日々が続いたため、連休明けに緊張の糸が切れてしまったとき。
春の陽気のせいで勢いづいてあのコに告白したら、あっさり玉砕してしまったとき。
気がついたら、5月病の魔の手の影が、私たちをすっぽりと覆っていた。
しかし、人間社会では5月病だからといって、さぼることは許されない。
なぜなら、私たちはこの社会の歯車だから。
社会活動が続くかぎり、歯車は回り続けることが使命だから・・・。
さて、クマムシです。
クマムシは、周りに水がないと活動できません。
エサを食べたり、成長したり、卵を産んだりすることができないのです。
でも、陸にいるクマムシは、周りに水が無くても生きていけます。
どうやって?
5月病になって活動を停止し、引きこもっているのです。
路上の乾燥した場所に生えているコケに住んでいるクマムシは、雨が降った日など、水のあるときにしか活動しません。
雨がやんでコケが干上がると、クマムシもカラカラに乾いてしまいます。
でも、大丈夫。クマムシは、死なない。
「乾眠」という仮死状態になって、生きのびるのです。
「あ〜も〜。水なくなったしも〜い〜や〜〜〜」
といったかんじ(かどうかは不明)で乾いて眠ってしまうのです。
まさに、5月病。
イヤなこと(=水がなくなること)があると乾眠になって、やりすごします。
クマムシだけではなく、コケやコケのなかの微小生態系をなす他の小さな生き物たちも、みな乾いて活動がストップしています。
コケ生態系メンバー、総5月病。
乾眠になったクマムシは、また雨が降ると吸水して活動を再開します。
下は、活動状態のヨコヅナクマムシが乾燥して乾眠になり、また吸水して復活するようすです。
乾眠の状態だと、生命活動がみられません。
つまりこれは、生きているともいえず、死んでいるともいえない、第三の生命状態といえます。
私たちのグループでは、この第三の生命状態のひみつを見つけるべく、日々研究活動を行っているのです。